史書に見る史実の多くは無味乾燥ですが、史跡は正真正銘の歴史の語り部です。 散在する史跡を尋ねるうちに、その地域の歴史を広がりをもって実感できます。
  • ホーム
  • 紀行文
  • キリシタン史跡
  • 太平洋戦争
  • 核物理
  • お問合せ
  • リンク

平成19年3月13日朝、長崎駅からJRに乗って長崎本線を諫早へ向かう。車内検札で特急料金350円を取られる。諫早から一両編成の島原電鉄に乗り換えて、各駅停車でのんびりと島原半島南端の口之津を目指す。左手に広がる諫早干拓地は2500億円余を費やして10年間にわたる工事を今年完了する。有明海に面した神代は、有馬征服を目指した竜造寺隆信が12000人の軍勢を海路上陸させた地である。島原に近づくと右前方に屹立した峰から白煙を吐き続ける平成新山が見えてくる。それとは対照的に緑で覆われた眉山の横顔が そのすぐ左手に見える。

終着の島原駅で改札の駅員に口之津へ行くにはどうすればよいか聞いてみたところ、バスがよいとのアドバイスを得たのでそれに従うことにした。バスが到着するのを待つ間、駅前に立つと正面に島原城、その背後に眉山が、そして平成新山の突端がわずかに見える。竜造寺隆信率いる佐賀勢と薩摩・有馬勢が激突した沖田畷へ行きたかったがその時間はない。

口之津行きの島鉄バスに乗り換え南下する。島原の街中を出るまであちこちに立ち寄るので、なかなか先へ進まない。乗降客は病院通いの老人が殆ど。薬袋を詰め込んだビニール袋を一度ならず床に落としたのを後から気付いて難儀しながら拾い上げる人もいる。バスは陽光のもと、島原湾を左手に眺めつつ丘陵地帯をぬって走る。海上に湯島、別名談合島、が見える。島原キリシタン史でよく出てくる深江、有家、田平、原城を経て終点・口之津に着く。引き返して、昔訪れたことのある原城に行きたかったが、案外距離がありそうなので断念する。

到着したところは天草鬼池との間を往復するフエリーの船着場の待合所である。南方を見ると湾口が細くくびれており、口之津が天然の良港であることが分かる。晴れたり曇ったりのまずまずの天候なので、案内図に従って県道を横切り、北に向かう。海岸から300mほど入ってすぐ整備された沼沢地に着く。その北端の地に南蛮船来航の地の石碑が建っている。永禄10年(1567)南蛮船が入港し、南蛮貿易港として栄えた、という。1579年には巡察師ヴァリニヤーノがマカオからここに到着している。現在この地は港の海面より高く、巨大な船がここまでやってきたとはにわかに信じがたい。当時より4世紀半の間に土地が隆起したのであろう。

天草下島河浦町にも内陸の道端にルイス・デ・アルメイダ上陸地跡南蛮船碇泊所跡と記した標識が建っている。田圃の西側に羊角湾の海面が光っているのを見て、当時とは海岸線が後退し地形が様変わりしていることを実感した。そこも湾の最奥に位置しており、帆船を安全に係留するのに適した土地柄であっただろう。

引き返して町役場に立ち寄り、観光資料を入手する。海岸に出て湾口を眺めると遠く赤塗りのなんばん大橋とその左側に歴史民族資料館が見える。10年以上前に訪れたが、その時どの交通機関を利用したか覚えがない。こんなことを考えながら自然に湾の周りを歩き出した。タクシーが数台客待ちをしているのを無視した。というのは先刻手に入れた観光資料には、資料館まで徒歩15分と書いてあったからだ。途中で思ったより遠いことが分かり、軽はずみなことをしたと悔やんだが後の祭り。

やっと、なんばん大橋の袂まで来て橋床が海面から高く盛り上がっているのを見て、渡るのに怖気づいた。高所恐怖症を克服して対岸まで渡り、口之津歴史民族資料館の方を見ると、なんと休館ではないか。この建物は明治32年長崎税関口之津支所として建てられ、三池石炭積出の取締りに当っていた。運悪く、館内資料整理とかで三日間の休館の真ん中の日に当たっていた。先に立ち寄った役場であらかじめ確認しておくべきであった、と反省しつつもと来た道を重い足を引きずりつつ引き返す。昼近くになったので食堂に入って昼食を摂る。13時01分諫早行きが出発したばかりの島鉄口之津駅のホームに立ってみた。終点加津佐から1時間に1本しかやって来ない。待合所に戻るとテレビで、全日空機が片 肺着陸をするのを実況中継していた。

13時50分小浜経由諫早行きのバスに乗って帰途につく。口之津を出発してすぐ、一年前に訪れた加津佐を通過する。海に向けて立つ岩戸山が左手に見えてくる。海側の洞窟へ行くのに苦労したことを思い出して、車窓から何度も振り返りつつ名残を惜しんだ。小浜を過ぎるあたりで睡魔に襲われる。諫早市内に入って川を渡るあたりで記憶が戻り、鰻屋さんを探すが見つからない。そうこうしている間にJR諫早駅前のバスセンターに到着する。口之津を出発してから1時間半が経過していた。