史書に見る史実の多くは無味乾燥ですが、史跡は正真正銘の歴史の語り部です。 散在する史跡を尋ねるうちに、その地域の歴史を広がりをもって実感できます。
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核分裂過程で解放される直接的なエネルギーは原子一個当り170Mevのオーダである。これは通常の燃焼過程での原子一個当り反応熱の107倍以上に相当する。

第二章3で、我々はすぐ問題の核心に迫る:ウラン核の分裂で解放されるエネルギーは爆発や火のような代表的な化学燃焼で解放されるエネルギーの107倍、即ち一千万倍以上であることを。従って我々はどこからこの大きな数字が出てくるのか理解する必要がある。

3 第二章から我々はいわゆる科学的表示法を使い始める。普通の十進法は非常に大きいか、非常に小さい数字を扱う時には不便である:
1,000,000×10,000,000=10,000,000,000,000
10の後に0が十二個続く、10兆は読むのが容易でない。1の後に零が幾つあるか言ったほうが、それを総て書き下すより簡単で便利である。従って、我々は1の後にn個の零が続くという意味で10nと書く。10は101、100は102、1000は103等などである。式(1)を科学的表示(ドットを乗算符号に置き換える)に変換し、次の形にする:
106・107=1013
単に10の冪数である指数を加え合せるだけで乗算が出来るという素晴らしい利点がある。2,500,000を次のように書く:  2.5・106
この表記法は逆に負の指数を使って非常に小さな数字の表現に拡張できる。10-nは1を10のn乗で割ることを意味する。従って、10-1は1/10、10-2は1/100等である。十進法では10-1=0.1、10-2=0.01、10-3=0.001である。
2.5・10n
を得るには、2.5と書いて小数点をn個右に動かす;
2.5・10-n
を得るには、2.5と書いて小数点をn個左に動かす。


核分裂で解放されるエネルギーの源は二個の原子又は分子が化学的に反応して解放するエネルギーの源と厳密に同じであるから、我々はそれが出来る。それは二個の同じような電荷を持った粒子間の静電エネルギーなのである。二個の同じような電荷を持った粒子は互いに反発する。そこには両者を引き離す電気力が存在する。この斥力に打ち勝ち遠くからRと呼ぶ分離点まで近づける仕事がなされねばならない。

原子より簡単な粒子から始めるために、押し合う二個の電子に注目しよう。もしこれを解き放てば押し合う状態に持って行く仕事に相当するエネルギー量で飛び離れていく。そのエネルギーEは下記の公式で与えられる:

E=e2/R        (1)

ここでeは電子の電荷、e2はその自乗そしてRは粒子間の距離である。この静電エネルギーはこうして運動エネルギーになる。化学反応では(例えば、ロケットエンジン内での酸素と水素との燃焼)、原子や分子の中に拘束されていた電子がその位置を変え、その静電エネルギーの変化が化学反応のエネルギーとして現れる。

さて、ウラン核内部の静電エネルギーを考えよう。ウラン核は92個の陽子を持ち、各陽子は電子一個と同じ電荷を有するが符号は正反対である(異なった符合を持った粒子は引き合い、同じ符号では反発し合う)。従って、ウラン核は電子一個の92倍の電荷を持つ;その符号は負ではなく正である(‐ではなく+)が、式(1)は電荷の自乗になっているので符号の差は問題にはならない。式(1)の分子は922倍だけ化学反応より大きいと言える。我々の目的からすれば、922は1002とほぼ同じである。よって、ウラン原子に対する分子は1002倍、100かける100倍、または10,000(104)倍になる。

ウラン核は原子一個よりずっと小さい。原子の内部では距離Rは10-8cm(cmはセンチメーターを表す)である。ウラン核の半径は10-12cmで、104倍だけ小さい。ウラン核の静電エネルギーは原子や分子間の静電エネルギーより分子で104、分母で104、全部で108倍大きいことになる。ウランが核分裂するとそのエネルギーの大半が分かれて飛び去る二個の分裂片の運動エネルギーとして解放される。ウラン核が半分に壊れるものとしよう。各断片は半分の電荷を持つ。式(1)の分子は四分の一(半分と半分の積)の大きさになる。また、容積は半径の立方であるから、半径は次の因数分小さくなる: 

          各断片は全体の静電気エネルギーの三分の一のエネルギーを持ち、二個で三分の二になる。従って、残る三分の一が反応エネルギーとなる。

核分裂のエネルギーは化学反応の約108倍(一億倍)であることを知ったが、この事実は「107以上」と述べたことを裏付ける。

これは170・106・4.8・10-10/300=2.7・10-4erg/nucleusである。25の原子核一個の重量は3.88・10-22gram/nucleusであるから、解放されるエネルギーは
     7・1017erg/gram
TNTの内部で解放されるエネルギーは4・1010erg/gramまたは3.6・1016erg/ton
従って次のようになる:
     1kgの25≒20000tonのTNT


ウラン1グラムとTNTのような科学的爆発物1グラムが解放するエネルギーを較べるとき、ウラン原子の重量は化学反応をする原子の十倍に相当することを知っておかねばならない。であるから、与えられた重量のウランの中には唯の十分の一の原子しかない。等量のウランと科学的爆発物で比較するなら、108を107に減じねばならない。ということは、ウラン1キログラムはもしそれが完全に核分裂したとすれば、約104トン(10,000トンまたは10キロトン)の爆発物に相当しこの値は第二章の最後に掲げた20,000トンという実際の値にかなり近い(皆さんが考える時、10を因数とした「大きさの位」という用語を使わないなら二万は20,000にかなり近いとは思えないだろう)。一万と20,000は同じ大きさの位(104;一方は1・104で他方は2・104)なのである。

どういうわけか昔のアインシュタインの相対性理論、とりわけ彼の有名な公式E=mc2、が核分裂理論の中で本質的な役割を演じている。アルバート アインシュタインは米政府に原爆を作る可能性について警告する役目を担ったが彼の相対性理論は核分裂を議論するのに必要ではなかった。核分裂理論は理論物理学者が言う非相対性理論であって、相対的効果が核分裂過程の力学に与える影響は非常に少ない。

この入門書の第二章ではウラン1グラム核分裂によって解放されるエネルギーとTNT1グラムの爆発のよって解放されるエネルギーの比をもっと正確に計算して行こう。これらの量の比を得るにはそれらを同じ単位で測らねばならない。科学の異なった分野で同じ量を測定するのに違う単位を用いる便利なために物事を複雑にして来た。化学者はエネルギーをカロリーで測るのに対し、物理学者はエネルギーの標準単位としてエルグを用いる。エルグの単位は日常使用するには小さ過ぎる。電力請求書の支払者は電力にキロワット時を用いる;1キロワット時は3.6・1013エルグである。一方、原子物理学者にとってはエルグは単位として大き過ぎて便利ではなく、もっと小さくて違う単位の電子ボルトを使用する:電子ボルトは1ボルトの電位差を落下する電子が得るエネルギー。これは便利なサイズで 、例えば電子1個を水素原子の中に閉じ込めるエネルギーは14ev、即ち14電子ボルトである。化学的な結合エネルギーはほんの数evである。核物理学者はこの単位を借りて、より多く用いている:Kevは1,000ev(103);Mevは1,000,000ev(106)。

この入門書では核分裂で解放されるエネルギーは170Mevであるとした。この値を、TNTによって開放されるエネルギー、グラムあたりエルグで与えられる、と比較するには電子ボルトをエルグでどう表せるのか知らねばならない。この質問に最も簡単でかつ信頼が置ける方法は図書館へ行って、各種測定単位の比率の表を掲載した化学及び物理学ハンドブックのような参考文献をひも解くことだ(1フイートは12インチ、1インチは2.54センチメートル、1オンスは28グラムに相当する:これらが私の言う比率である)。しかし1943年4月当時のロスアラモスでは 、我々は図書館員(私の妻シャーロッテ)と図書館があったがまだ図書がなかった。だから明らかに私はこの質問に容易く答えられなかった。私は電子ボルトの定義と私が覚えていた幾つかの数字を用いてこの値を封筒の裏に計算した。これが第二章の第二節から始まる怪しげで簡単な計算である:
 170・106=エネルギー(ev)
かける
 4.8・10-10
これは電子の電荷
 /300
1ボルトは電圧の静電気単位の1/300であるから
 =2.7・10-4erg/nucleus
この値はevで表されたエネルギーをergで表したものである。私の計算はウラン1kgの核分裂エネルギーは20,000トンのTNTが爆発した時に相当することを示している。波型等号(≒)は"略等しい"を意味する。トンはショートトンであり、2,000ポンドまたは907キログラムを示す。

第二章で私は我々が興味を持つ形態であるウランの稀な形態を"25"と称した。この簡単な符号はマンハッタン計画では普通に用いられた;25はU235、28はU238、49はプルトニウムの一種のPu239を意味する。ウランは元素92プルトニウム元素94は夫々の原子核の中にある陽子の数を表す。原子核の中の陽子と中性子の和が原子量を粗く表す(これが重量を正しく表すものではない)。どの種のウランも92個の陽子を持ち、どの種のプルトニウムも94個の陽子を持つが、異なった種のものは中性子の数が異なる。この異なった種を"同位元素"と呼ぶ。普通のウラン同位元素は原子番号92、原子量238(中性子146個を含む:全核子238‐陽子92=146)である。非常に稀な同位元素で我々が興味を持つ同位元素は原子番号は93だが、原子量は235である。我々が興味を持つプルトニウム同位元素は原子番号94、原子量239である。我々が使った符号は単に原子番号の最後の桁を取り、それを原子量の最後の桁と一緒にしたものである:92238は28に、94239は49に、そして92235はここ第二章にあるように25になる。原爆に関する我々の研究は軍事上秘密だったから、"ウラン"とか"プルトニウム"という言葉を声高にしゃべれなかった。このため我々は符号を使ったのである。

二万トンは何かの1キログラムに対する値としてとても印象的である。1グラム当たり7かける1017エルグは略20,000キロワット時である。従って、ウラン1ポンド(454グラム)は九百万キロワット時の電力を作り出す。我が地方の電力会社コンソリデーデッド エジソンはこれに百二十五万ドルを請求することだろう。