史書に見る史実の多くは無味乾燥ですが、史跡は正真正銘の歴史の語り部です。 散在する史跡を尋ねるうちに、その地域の歴史を広がりをもって実感できます。
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陸軍防空用高射火器の能力はどうであっただろうか。まず首都防衛にあたった高射第一師団の例を見よう:

高射第一師団は昭和十九年十二月、東部高射砲集団を改編して東京で編成され、終戦時の上級部隊は第十二方面軍であった。 その司令部は国立科学博物館本館(上野公園内)にあった(注参照)。

B-29のマリアナ基地からの発進は昭和十九年十一月から始まり、昼間に高度一万メートルで東京を初空襲した。 B29は、伊豆半島から進入し富士山で東進したため、東正面重点指向を一部西正面に変換した。
88式7.5センチ高射砲では最大射高が九千百メートルと不足だったため、12センチ高射砲(最大射高一万四千メートル)に変更した。

  米軍は当初、高々度から航空機製造工場等の爆撃を行ったが、途中で夜間低高度焼夷弾爆撃に方針を変更した。昭和ニ十年三月十日、東京の下町地区に対する東京大空襲はその無差別爆撃の皮切りとなるものであった。この時、高射第一師団は強靱な対空戦闘を行ったが、五十機撃破の戦果に止まった。

昭和ニ十年五月、15センチ高射砲(最大射程一万六千メートル)が完成し、師団は二門を久我山陣地(東京都杉並区)に配備、七月中旬には運用に入った。この高射砲はB29に対して威力を発揮し、以降はこの上空を回避するようになった、という。
(注)旧高射第一師団司令部:
http://moijan0.hp.infoseek.co.jp/1aadhq.htm

米軍側の記録によると、東京大空襲でのB-29の損失は十四機で、うち対空砲火によるもの二機、としている。日本側の五十機撃破は誇大報告なのだろうか。

15センチ高射砲につき、浄法寺氏は著書(注参照)の中でこう述べている:
終戦も間もない八月二日の朝、高度一万二千メートルで陣地上空に侵入したB-29の編隊は、15センチ高射砲の五十キロの巨弾を受け、一瞬のうちに二機を撃墜され、以後この久我山上空を飛ぶB-29はなくなった。

この記事も威勢がよいが、実態はどうであっただろうか。もしこれが真実なら、新兵器の出現に米軍側は震撼しただろう。

この日、B-29百八十機が八王子市街を爆撃した。零時四十五分から二時二十九分の間、高度四千五百から四千九百メートルで焼夷弾を投下している。
米軍側は、原因不明でB-29一機を失ったほか、この時の重砲と小口径砲の対空砲火は貧弱・不正確で、損傷一機のみ、と報告している。多分、こちらの方が信用できるだろう。

陸軍が保有した高射砲の一覧(注参照)を次に掲げる:
   制 式 化  口径(mm)  砲身長(cm)  初速(m/s)  最大射程(m)  最大射高(m)
 14式10センチ高射砲  大正14年  105    700    9,600
 88式7.5センチ高射砲  昭和3年  75  331  720  13,800  9,100
 99式8センチ高射砲  昭和17年  88  396  760  15,700  10,000
 3式12センチ高射砲  昭和18年  120  671  800  20,500  14,000
 15センチ高射砲  昭和20年  149  894  860  20,000  16,000
(注)浄法寺朝美「日本防空史」(原書房)

3式12センチ高射砲(海軍12センチ高角砲と同種)は台座がコンクリート、砲床が固定式で昭和十八年以降、東京・大阪・北九州の要地に配備された。

今日、レーザー誘導爆弾(GBU-24A/Bなど)が実用化され、従来のように大量の爆薬を注ぎ込んで一般人を巻き添えにすることなく、狙った標的をピンポイントで爆破できる。また、遠く安全なところから発射して、地形照合航法により自立飛行し、目標を精密爆撃できるトマホークミサイルも実戦に供されている。さらに、弾着精度が向上した弾道弾の脅威も加わった。

豊川海軍工廠跡地に駐屯する第十高射特科大隊(注参照)は、中部方面隊・第十師団における唯一の対空部隊である。
主要装備として
  • 対空レーダーP-9・P-14
  • 三十五ミリ二連装高射機関砲(L-90)
  • 81式短距離地対空誘導弾
  • を保有することから、低空域対航空機防衛部隊と考えられる。
    (注)第十高射特科大隊:
    http://www.jda.go.jp/jgsdf/topics/closeup/10aabn.html 豊川空襲のような脅威には、これに中空域防空用改良ホーク等を加えた重層防空が必要になる。大戦末期に市民を多数殺傷された愚を二度と繰り返すことのないよう、装備の更なる近代化に不断の努力を重ねてもらいたいものだ。

    (注)写真:地対空誘導弾改良ホークミサイル三発を搭載した発射機